「お連れの具合が悪そうだが大丈夫かね?この先に休める所がある筈だが」
海から帰る途中にぐったりとした俺に水着をくれたシルフィさんを見かけ、
どうした物かと途方に暮れている所へ声を掛けたのは、昼真に遭遇した綺麗な水着の女性だった。
その時とは違い、今はきっちりと、落ち着いた印象の強い衣装を身に纏っている。
「宜しければ、ご一緒して貰えると助かるのですが…、シルフィさん大丈夫ですか?」
「ぅ、んー……大丈夫ですよー……あ、どうぞどうぞ。誰か知りませんけど」
こうして夏の長い一夜が始まった。。。
『夏の夜 前話』
「さっきは有り難う御座いました。後、昼間も声を掛けずに申し訳ありませんでした。ええと…、
俺の名は燕子花 清明と。清明の方が名になります、宜しくお願いします」
例の彼女も少し表情を緩めた後に名乗ってくれた。
「うむ、丁寧にありがとう。私はアルテアという。アルテア・S・レイフロストだ。
昼間の件は連れもあったのだろうし、気にする事でもないさ。お連れの名前も尋ねて良いかね?」
「あ、ご丁寧に。シルフィとかいいますです、よろしくですよー」
「清明君にシルフィ君か。よろしく見知り置き願おう」
こうしてアルテアさんの協力の元、無事に目的地に着き、各々自己紹介も終った。
道中、アルテアさんの力の強さに世話になりっぱなしだったのは言うまでもない。そこへ
頼んだ物がやってきたので、食事を始めたのだが、アルテアさんの動きが止まって居るので
見ればシルフィさんが酒を凄い勢いで呑んでいた。その光景を見て停止する。
俺とアルテアさんの視線を別の物と捕らえたのか……飲みます?と訪ねてくれたが
酒に弱いと言うことで心苦しく有ったがお断りした。
「……それにしてもシルフィ君は酒が好きなのだね?」
具合が悪そうだった彼女の事がアルテアさんは気になるらしい。
確かに、即お酒!は可能では無さそうだっただけに当然と言えば当然だけれど。
彼女の言葉に少し、間を置いてシルフィさんが語る。
「んー、蛇はそういうものだと思います、よ?……おいしいのに。」
「確かに俺の故郷でも蛇の一族の方達は酒好きが多いと聞きますね」
確かに、蛇に属する、また蛇に関わる一族には酒好きが多かった気がする。シルフィさんの蛇の言葉に
興味を抱くアルテアさんにシルフィさんが説明する最中、俺は頼んだお茶を少し置き、
卓上のお品書きを手に取り眺める。島では言葉を交わすには苦労しないが文字は読み取り難く、
ゆっくりとお品書きの中身を読み上げていく。最初のお茶と一緒に頼んで出てきた刺身を一口摘む。
美味しい。他の物も何か無いだろうかと、見るとだし巻き卵と漬け物を発見する。
二人は蛇話が進んでおり、アルテアさんも少し表情が解れているようだった。
そんな二人を横目に先程より苦いお茶の味に首を傾げながらも口にする。
アルテアさんはあっさりとした野菜系を摘みつつ、ワインをじっくり味わっている。
シルフィさんは変わらずにお酒を水のように呑み干している。
「ところで、その髪の毛は地毛なのかね?昼間私が見ていた理由、そのひとつが君のその髪だったのだよ」
お茶の味を訝しがっていると、昼間のあの事について話しかけられた。
翼は出てないし人目に入る物と言ったら確かにこの髪ぐらいだろう。前にも似た様な事で
話しかけて来た人が居たので成る程、と納得する。
”一緒に海に行きませんかっ?
浜辺は皆さん水着ですし、水着じゃないと目立っちゃいますよ?”
サマーバケーションとやらとは縁は無さそうだと、シルフィさんから頂いた水着を片付けようと、
袋を手にした俺の元にやってきたのは、少し前からの知り合いのラスさんだった。
いつもと違って、意気揚々と楽しそうなその様子に、自分は行かないとも言えず、
手元の水着をくれたシルフィさんの顔も浮かんでしまったので結局、長時間渋った結果に
海へ行く事に首を縦に振ったのだった。その時のラスさんの笑顔は楽しそうだったので
これはこれで良かったんじゃないだろうか。絶え間なく変わる表情にこちらも癒される。
気紛れさが無く、人懐っこいので猫らしいと言うかは微妙、と思って
自分の所の猫系を想像したら切なくなったので止めておく。
そんな経緯を経て、俺は海に来て水着という物を着用し、
恨めしい程に照りつける太陽の下立っている。
傍らには誘ったラスさんが立っているが、当人もこれ程の人が居ると思わなかったらしく、
小さく可愛らしい目をしばたかせて居る。俺も俺で人混みは苦手なのと、いつもと違って
背に有る物が無い状況でこの恰好というのは恥ずかしさ倍増で落ち着かない。
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ただ、待つというのは、不安だな。
そ う零した彼女に側の黒猫の妖は苦笑を。
何時だってそれは自分たちが抱いてきた思いであったから。
『約束の終わり』
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